「ワンツー、ワンツー」
庭に出し、そう声がけをすると、プーはすぐに排泄をするようになりました。
「ワンツー」とは、盲導犬の排泄をうながす合図です。排泄をする時にいつも同じ声がけをして排泄後にいつもフードを与えていると、その合図を耳にすると排泄をすぐにするようになります。
これは後々勉強してわかるのですが、学習心理学における三項随伴性という理論にもとづくトレーニング法です。海外ではABC理論と呼ばれています。Antecedent(先行刺激)→Behavior(行動)→ Consequence(結果)。トイレトレーニングでいえば先行刺激が「ワンツー、ワンツー」という声がけ、行動が「排泄する」、結果は「ご褒美がもらえること」となります。
2000年以降は、こうした学習理論に基づいたトレーニング方法が広がっていくのですが、私が勉強していた頃は「犬はオオカミ」的な古い行動学に基づくトレーニング(古いといっても当時は新しかったわけですが)が主流で、先行刺激という文言は耳にしなかったように記憶しています。言葉がけは、その行動を起こした時にかける、と教わりました。もちろんそれでも、犬は合図で行動を起こすようになるのですが、より確実で効率的なのは、行動の直前、先行刺激として言葉がけをすることなのです。
庭で排泄をさせた後は、足を拭いてリビングにプーを戻します。
当時の家は築20年と古く、庭へはリビングのサッシを開けて出ました。リビングと庭の地面には、50センチほどの段差があったでしょうか。
たかが50センチ、されど50センチ。
庭に出す時には、リビングから腰をかがめプーをおろします。リビングに戻すときには、一旦私が庭におり、プーを抱き上げてリビングに上がります。小さいウチはいいのですが、プーは日増しに成長していきます。我が家に来たときには2キロ無かったわけですが、1カ月もしたら4キロ近くになっていました。この先、庭とリビング間の上げ下ろしが、どんどんと大変になることは想像できました。
雨の日はさらに一苦労です。
傘を差しながら、プーを抱き、足を拭く。小雨ならいいのですが、本降りだと私もずぶ濡れになります。
プーの体重は日増しに増えていきました。4カ月を迎える頃には、体重は6キロを超えるようになっていました。
プーがどれだけ大きくなるのかは、誰にもわかっていませんでした。純血種であれば親と同じくらいの大きさになります。また病気もせずにまっとうに成長していれば、2カ月齢の体重の3〜4倍程度が成犬時の体重のおおよその目安になります。しかし、プーは親がどのくらいの大きさなのかわかりません。保護されたときは衰弱しており、それまですくすくとまっとうに成長してきたのかもわかりません。
毎日、プーを抱いては地面に下ろし、そして抱き上げてはリビングに。いずれ腰を痛める。私はそう確信しました。
ある日、プーが庭を楽しそうに散策をしている姿を眺めていたところ、ひらめきました。
「そうだ! ウッドデッキだ!」
リビングから段差無く出られるウッドデッキがあって、ウッドデッキから地面への階段があれば、抱き下ろしをする必要がなくなる。しかも、ウッドデッキならプーの様子もリビングから見え、今以上にプーを自由にさせられる。プーもきっと喜ぶはずです。
大工さんに頼んだら費用はどのくらいかかるのだろうか? 自分で作れるのだろうか? 自分で作るのなら材料費はどのくらいかかるのだろうか? 頭の中はウッドデッキのことでいっぱいになっていきました。
翌日には、ウッドデッキの作り方が書かれている日曜大工の本を買ってきました。2軒先のお宅が大工さんに頼んで作ったことも聞きつけました。ホームセンターに出向き、いろいろと聞き込んでもきました。
そこでわかったことは、大工さんに頼んだ場合、マンションのベランダ程度の広さでも十数万円以上かかること。そして、その程度のものであれば、頑張れば自分で作ることができそうなこと。しかも、費用は材料費だけなので大工さんに頼んだ場合の数分の1で済むということ。
どうせ作るのなら、とこれもまたいろいろ考えました。
当時の家は、庭の水はけが良くありませんでした。周辺の植木があるところはいいのですが、それ以外の部分は激しい雨が降った翌日は水たまりになってしまうのです。水たまりになる面積は、庭の半分程度です。
プーとは直接関係ありませんが、春から夏に向かっての雑草の処理にも毎年手を煩わされていました。水たまりのできるところ、雑草に悩まされるところの多くをウッドデッキで覆ってしまえば、それらの悩みからも解放されそうです。
プーの上げ下ろし、水たまり、雑草、これらの課題のすべてを解決し、さらにプーの喜びそうな広さを確保するためには、少なくとも10平方メートル程度の広さのウッドデッキを作る必要がある、そう計算しました。
「なんとかなるだろう」
勢いにまかせてはじめたウッドデッキづくり。なんとその制作期間は、ゆうにひと月を超えるものとなっていったのです。
※著者コメント

編集の段階で、ページ数の関係上書き上げた原稿から、8項目を減らさざるをない状態になりました。ウッドデッキの話は、2項目にわたり、これは前半です。第1章の10項目めの後「いい叱り方、悪い叱り方」の後に入れていました。個人的には、プーに関係する思い出で、大きなウエイトを占めるのですが、これを残せば他を削ることになります。本全体の中での優先順位は低いのではということで、泣く泣く、割愛しました。