いぬのプーにおそわったこと~番外編

Can ! Do ! Pet Dog School

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6.洋犬と日本犬
 
 
 

 


 

 
「見た目は洋犬ぽいけど、性格は日本犬ね」
 養成講座で親しくなった仲間からよくそういわれました。
 プーは父親がどんな犬か、母親がどんな犬かが全くわからない捨て犬でした。  同じ日に同じ場所に3匹捨てられていて、プー以外の2匹は、どこから見ても日本犬でした。プーだけが容姿が異なりました。
 成長するにつれプーは、容姿的には洋犬らしさを強くしていったように思います。プーの耳は立っていましたが、その耳を左右にぴたっと寝かせると、すなわち垂れ耳の犬のようにすると、ゴールデン・リトリバーのように見えました。
 その頃、プーには芸らしい芸を教えていなかったので、何か芸を見せて、といわれるとこの「ゴールデン・リトリバー」の一発芸をよく見せていました。
 性格の方はというと、洋犬とはかけ離れていました。
 洋犬にもいろいろなタイプがいるので一概にはいえませんが、そこをあえてざっくりと分けると、洋犬はフレンドリー、日本犬はシャイ、そんな傾向の違いがあるといえます。
 不思議なもので、この違いは人間、そう西洋人と日本人の違い、それにかなり似ています。
 挨拶の仕方を見れば、その違いは一目瞭然といえます。西洋人のそれは、  「やぁ、元気? ハッピー? 仲良くやろうぜぃ!」
 全身でそう語りかけているように、迫ってきます。ニコニコして相手にグワーッと近づき、握手をして、さらには初対面でも抱き合ったりします。
 一方日本人は、西洋人のそれに比べたらかなり控えめです。物静かに会釈をし、初対面なら相手の体に触れることもしません。そして、グワーッとやってくるタイプを苦手としたりもします。
 この違いが、犬にもあてはまるのです。
 プーはフレンドリーな犬が嫌いでした。しっぽを大きく振り、せわしなく、ぐわ〜っと近づいて来る相手に対しては、それ以上近づくなという態度をよく見せました。
 反対に日本犬タイプの多くは、グワーッとプーに近づいてはきません。
 お互いに目を合わせないようにしたり、顔を背けたり、ゆっくり動いたり、動くのを止めたりと、いわゆるカーミングシグナルを顕著に見せながら、近づこうとするのです。
 カーミングシグナルとは、
「私はあなたに集中してないでしょ、だからあなたも私に集中しないで」
 あるいは  
「どうしたらいいんだろう、とにかく落ち着かなくちゃ」 といった、相手を落ち着かせようとしたり、自らを落ち着かせようとしたりするときに見せる、犬の仕草です。
 こうした意味合いの仕草が犬にあることを提唱し始めたのは、ノルウェーのトゥーリッド・ルーガスです。目を見ない、顔を背ける、背中を向ける、体をかく、体を振る、あくびをする、ゆっくり動く、動きを止める、地面の匂い嗅ぎを始める……など、彼女は具体的な犬の仕草を、30以上ピックアップしていました。
 もっとも洋犬でも、こうしたカーミングシグナルが得意な犬はいます。
 かつてこんなことがありました。犬を自由にできるスペースにいたときです。そこは野球の試合ができるほどの広さがありました。そうしたドッグランのようなところでプーを自由にさせていると、プーは他犬と上手に距離をとりながら、トラブルなく過ごすことができました。
 もしもトラブルが起きるとすれば、相手との距離が近くなりやすい入り口付近です。トラブルを避けるために、その日も私は入り口から80メートルほど離れた位置で、プーを自由にさせていました。  
「あっ」  
1匹のビーグルが飼い主と一緒に、そのスペースに入って来ました。飼い主がリードを首輪からはずす間、ビーグルはこちらをじ〜っと見ています。リードが首輪から離れると、そのビーグルは私たちの方に一直線にダッシュしてきました。  「まずい!」
 せわしなく、ぐわ〜っと近づいて来るタイプです。私は何かしらのトラブルが起きることを、覚悟しました。
 しかし、トラブルは起きなかったのです。
 なんとそのビーグルは、プーの手前10メートルほどの距離でぴたりと止まり、地面の匂い嗅ぎを急に始めたのです。そして、匂い嗅ぎをしながらプーに少しずつ近づいて来たのです。プーはプーで同じように匂い嗅ぎを始め、相手に近づいて行きました。お互いのお尻の臭いを嗅ぐまでに、そう時間はかかりませんでした。ひとしきり、プーの匂いを嗅いだ後ビーグルは
「なんかつまんなそうなヤツ」
 とでもいいたげに、プーに背を向けて遠ざかっていきました。
 確かにこうした洋犬をときどき目にはしましたが、カーミングシグナルをうまく発しているタイプは圧倒的に、日本犬に多かったように思います。
 実のところ、シェパードのMちゃんに襲われた直後は別ですが、それ以外でプーが日本犬タイプとトラブルを起こした記憶は、私にはないのです。



※著者コメント

 この話は、本の中の「盲導犬協会での修行」という話の後に入っていました。プーはラブラドールリトリバーなどのフレンドリーな犬が苦手でした。盲導犬協会はラブラドールの宝庫です。盲導犬協会での日々を思い起こすことがきっかけで、書き記したのですがページ数の関係で、この項もなくなく省いた次第です。