いぬのプーにおそわったこと~番外編

Can ! Do ! Pet Dog School

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 Can ! Do ! Pet Dog School

 
 
 
 
 
7.恥をかかせることに
 
 
 

 


 

 
 息使いの荒い、喘ぎが激しい犬がプーは苦手でした。
 周囲が見えないように掛け布をかけたクレート内で休んでいるときでも、息使いの荒い、喘ぎが激しい犬が近づくと、
 「あっち行け」
 と軽く吠えていました。  
「おはようございます」
 その日は、都築の盲導犬協会のトレーニングセンターに出向いていました。ドッグ・トレーニング・テストの、お手伝いをするためです。
 インストラクターの認定を得る以前から、私は養成講座のお手伝いを積極的に行っていました。プロのインストラクターになってからも、7年ほどはそのお手伝いを続けていました。
 お手伝いを積極的に買って出ていたのには理由があります。それは、テリー先生の最新の講義を聞くことができたからです。
 2000年に入って間もない頃の話です。インターネットが普及してきたとはいえ、動画を手軽に見られる状況ではありませんでした。youtubeが設立されたのは2005年です。最新の海外の情報は、まだまだ生身の人間から直接入手するという以外ない時代だったのです。  
「誰かデモンストレーションをしてくれる人はいない?」
 テリー先生が手伝いに来ていた数名を前に、口を開きました。
 ドッグ・トレーニング・テストの受験生に、ひと通りテスト内容を見てもらいたい。テリー先生はそう考えたのでしょう。
 30秒ほど、沈黙の時間が流れました。  
「ではプーでやってみます」
 誰も手をあげようとしないので、仕方なしに私が名乗り出ました。
 プーはクラスでのデモもそつなくこなしていましたし、ドッグ・トレーニング・テストの各項目も、合格してからもときどきトレーニングをしていて、以前より余裕をもってできるようになっていました。私はプーが上手にデモンストレーションをこなせるのではないかと、考えていました。
 ところが実際は、思い通りにはいきませんでした。
 確かにプーは、テストの各項目を余裕をもってできるようになっていました。でもそれは、苦手な犬が至近距離にいないこと、それが条件だったのです。
 私とプーは、テリー先生の指示に従い、テストの順番通りにデモンストレーションを見せていきました。問題が起きたのは7番目の「スワレ・マテで1.8メートル離れ30秒待たせ、それから元の位置に戻る」という項目でした。
 日常的に、いろいろな場所で6メートル離れてのマテを、それも数分間待たせることをトレーニングしていました。まさかこの項目ができないとは、思いもよりませんでした。
 テストは、指定の場所で犬を座らせるところから始まります。  
「あれ、ちょっとまずいかも」
 私は一抹の不安を感じていました。
 各受験者とそのパートナー犬たちは、テストで使用するスペースを取り囲むようにして立ち、私とプーのデモンストレーションを見ていました。  
「ハァハァハァハァ」
 悪いことに、スワレをさせる指定の位置の、1メートルほど離れた場所に、大きなビアデッドコリーとその飼い主がいたのです。
 プーを指定の位置に座らせました。ビアデッドコリーは、プーの背中側で、あえいでいます。プーが、その犬を気にしていることは明らかでした。
 実際のテストでは、そんな至近距離に他の犬がいることはありません。  
「スミマセン、その犬を遠ざけてくれませんか」
 などと、注文をつけることもできないわけではありません。
 しかし、周囲は認定インストラクターとそのパートナー犬として、私たちを見ているはずです。認定インストラクターの沽券にかかわる、とそうした要求をすることが、その時の私にはできなかったのです。
 1.8メートル離れて10秒もしないうちに、プーは後ろを気にして立ち上がってしまいました。
 そのあとの項目は、すべてがボロボロの状態でした。  
「かっこいいところを見せなくちゃ」
 そう張り切っていた私は、その出鼻をくじかれ赤っ恥をかかされる結果となったのです。プーに申し訳なく思いました。私の不注意で、プーにも恥をかかせてしまったのですから。  
「ごめんな、プー」
 私は、テリー先生から、かつていわれていたアドバイスを思い出しました。  「プーくんはストレスに弱いから、デモンストレーションには十分な配慮が必要ですよ」
 認定を得てプロになり、しつけ教室を運営し始めて、気づかないうちに自信過剰になっていたのでしょう。私はそのアドバイスを、すっかり忘れていました。
 テリー先生も、心配はしていたことでしょう。でも、私を信頼して任せてくれたのでしょう。
  私は、テリー先生にも恥をかかせるという結果を招いてしまったのです。



※著者コメント

 この話は、本の中の「デモンストレーション犬として」という話の後に入れていました。プーはフレンドリーな犬が苦手と話しましたが、せわしない犬、喘ぎの激しい犬も苦手でした。今思い起こすと、プーとテリー先生には申し訳ないことをしたと改めて思いますが、この体験は私をインストラクターとして大切なことを何か教えてくれたように感じます。