「たまらんなぁ」
隣の犬が吠えていたという、初めての犬連れ可ペンションでの体験。それに懲りた私は、翌年からは、貸別荘を利用することとしました。
貸別荘なら、隣の宿泊客と十分な距離が取れます。隣の犬が吠えていても、気にならないでしょう。調べて見ると、いつも行っていた蓼科周辺にはIという別荘地があり、そこの何棟かが貸別荘として利用ができ、さらにはペット連れでもオーケーという建物があったのです。
ペット可ということは猫も連れて行けるのかと考え、プーにとって2回目のスキーには、チビコも同行させました。
キャンプでも、ペンションでも、プーはどこに行っても、いつもとそれほど変わらない様子でした。警戒するものは距離をとろうとしますが、その距離さえ取れていれば、普通の状態でいられますし、ほとんどのものは慣らせばすぐに気にも留めなくなります。クレートから出てこないなどといったこともありませんでした。
「降りて」
別荘の駐車場に着くと、プーにリードを付け車から降ろします。
玄関まで歩かせ、足を拭き別荘内に入れます。建物に入るとリードを外します。プーは各部屋を歩き回って、それぞれの部屋を確認します。一通りの確認が済むと、プーは気に入ったところで伏せたり、私について回ったりと、普段通りの振る舞いを見せます。
でもチビコは違いました。
チビコはキャリーバッグのまま、車から別荘の建物内に運びます。猫を自由にさせてしまえば、別荘の内装などを痛めたりする危険もあります。そこで私は、小さな猫用のサークルも持参していました。
私は、キャリーから出して、少し室内の探検をさせて、それからサークルに入れようと考えていました。
ところがチビコはキャリーバックの中で固まったまま、全く出てこようとしませんでした。
「大丈夫だから出ておいで」
妻が煮干しなどで誘っても
「チビコ、怖くないよ」
と子供たちが声をかけても、固まって出てきません。
「やっぱりダメか」
私はこの事態を、想定していました。
「犬は人につき、猫は家につく」
といういい伝えがあります。
これは「犬は家人になつき,引っ越しにもついて行くが,猫は人よりも家の建物・場所になじむ」ということです。
旅行などでも、犬は置いて行かれることよりも一緒に連れて行かれることを望み、猫は一緒に連れて行かれるよりも家に置いて行かれることを望む、ということです。
昔からのいい伝え通りだったということです。
「ねぇねぇ、ここどこ。今日はここに一緒に泊まるの、やったぁ」
プーがしゃべることができたのなら、おそらくそう口にしたことでしょう。
「冗談じゃぁないよ、こんなところに連れて来られちまって」
一方、チビコの方は、そう吐露(とろ)していたことでしょう。
チビコとのお出かけは、コレが最初で最後になった事はいうまでもありません。
一方プーにとっては、貸別荘はやはり快適なようでした。室内の自由度も高く、デッキがあればそこも自由にでき、お散歩にも気軽に出られたからです。
Iの貸し別荘はそれから毎年のように利用しました。フロントで場所を教えられ、そこに行くまではどんな場所に泊まるのかもわかりません。
「あ、ここだ」
外観も中も、どれひとつとして同じものはありません。天体観測のための屋根裏部屋がある、そんな建物に泊まったこともありました。
毎回新鮮な驚きがあり、そのわくわく感が味わえるのも、楽しみでした。
毎年出向いていたので、犬連れに適したスキー場もわかってきました。
ベストは、駐車場がゲレンデから見える場所に位置していること。
スキー場といえども、ピーカンの日には、締め切った車の車内の温度は、思いの他上昇します。冷たい外気が入るように、窓を少しだけ開けて置く必要があります。となれば、心配なのが車上荒らしです。駐車場がゲレンデから見える場所にあれば、車上荒らしにすぐに気づくことができます。
ゲレンデから駐車場へすぐに降りられる、この条件も重要です。
滑り降りるたびに、犬の様子も確認できますし、世話係として家族をひとり残していれば、その家族との交替も頻繁にできます。犬を雪上散歩にも頻繁に連れ出せます。
もちろん、いい駐車ポイントを確保するためには、早めの時間にスキー場に到着することも必要になります。
この犬連れに適したスキー場選びの基準は、プーが亡くなった後も引き継いでいます。
※著者コメント
この話はスキーの話の続きとして記しました。スキーの話を抜いたことにより、この話も必然的に没となりました。猫はチビコも亡くなり、いまはこにゃと名付けた猫と暮らしますが、彼は旅に出たことは一度もありません。